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第7章 渡辺との面談

平成九年六月二十日、Xは、日蓮正宗、小川只道、大草一男、渡辺茂夫、(株)帝国リサーチを被告とし、電話盗聴による精神的損害を被ったことを請求原因として東京地裁に総額一億円の損害賠償を求め提訴したが、その裁判は順調に進行していた(のち、被告に大石寺、阿部日顕、理境坊が加えられ、損害賠償の金額を被告各自一億円とした)。

平成十一年七月には、被告側の証人として(株)帝国リサーチの福田政が法廷に登場し、偽証の限りを尽くした。当然、偽証の目的は、電話盗聴の真の依頼者である日蓮正宗側をかばうものであった。福田は、(株)帝国リサーチ発行の「請求書」などの書証があり、しかもその「請求書」に書かれた日付に該当する電話盗聴の録音テープまであるにもかかわらず、電話盗聴それ自体を行なっていないとシャアシャアと証言した。

私は(株)報恩社の社員にその裁判を傍聴させていたが、十月二十一日に渡辺が証言するという日程が決まったとの報告を受けた。

◆電話盗聴した創価学会幹部の名前は「絶対に言えません」

私はこれまで渡辺に二度の取材をしていたが、阿部日顕、小川只道の電話盗聴関与については、「オフレコ」にしてくれるよう渡辺が私に頼んでいたので、渡辺が法廷で真実を述べるかどうか心配になり、面談をしておいたほうがよいと判断した。

平成十一年九月三日、午後五時半頃から午後九時半頃まで、渡辺の自宅より少し離れた埼玉県坂戸市の「ちゃんこ江戸沢」で、ちゃんこ鍋をつつきながら話をした。一緒に食事をしたのは、私と渡辺、そして同行した取材スタッフの三名だった。鍋料理といえば、やはり団欒であり和楽の雰囲気がある。ところが、この時の様子はかなり違った。鍋をつつきながら電話盗聴犯に法廷で真実を述べるよう説諭し、さらには電話盗聴した創価学会幹部の名前を聞き出そうというのだ。私がこの日、鍋料理を選んだのには、それなりの計算があった。リラックスした雰囲気を演出し、真実を聞き出そうとしたのだ。

渡辺は、日顕の電話盗聴関与については、

「猊下の関与を認めれば多くの仲間が離れてしまう」

と懸念を述べながらも、裁判では真実を述べなければならないと思っていると話した。理境坊住職・小川の電話盗聴関与については、まったく躊躇している様子はなかった。

「渡辺は腹をくくっているな」

こう思った私が、創価学会幹部の誰を電話盗聴したのかと聞いたところ、渡辺は、

「それは絶対に言えません」

と応じた。これには私も驚いた。加えて渡辺は、

「法廷においてもどこにおいても絶対に明らかにしません」

と断言までした。

私の頭は混乱した。〝法主〟である阿部日顕の電話盗聴命令を証言するというのに、電話盗聴した創価学会幹部の氏名を明らかにしないという渡辺の心理が、私には到底、理解できなかった。私は渡辺に以下のようなことを強調し、裁判においては真実を述べるよう促した。

「裁判はそんなに甘くない。ウソなんかつき通せない」

「裁判を自分の都合で利用できると思ったら間違いだ」

「ささいな矛盾があれば、証言しても信用されない」

「あなたの考えていることは浅知恵だ」

「社会的な罪ということも考えなければいけない。真実を述べ、公の場で被害者に謝罪し償いをするべきだ」

「あなたは真実を話せば共犯者から殺されると思っているが、それは逆だ。一部でも真実を隠していれば脅されるんだ。全部の真実を公にすれば、逆にあなたは守られる」

しかし、渡辺は翻意しなかった。渡辺は泣き顔で、

「勘弁してください」

「どうしても言えません」

と、そのことになるとかたくなに口を噤んだ。

◆ついに正座をして自白

私は創価学会員である。その私が創価学会幹部を盗聴したという人物を前にして自白に追い込めなければ、男としても恥である。どのような手段をとっても自白に追い込もうと思った。しかし、渡辺は思いのほか頑強に口を割らなかった。

私はほかの話しやすいことに話題を転じ、少し和やかな気分にさせて油断させ、さらに追及した。こうすることによって、渡辺に対し絶対に逃げられないという威迫感を与えていった。鍋をつつきながら酒を飲み、和やかに話をしているとグサッと詰められる。それを反復されると堪らなくなる。もうその話は蒸し返されないだろうと油断して鍋をつついていると、突如、その話がぶり返される。それが三時間以上も続いた。

時間の経過とともに私の心も煎れてきた。絶対に自白に追い込むとの気迫が、私の面相を変えていった。

渡辺も心の安定を欠いたのだろう。その揺さぶりの中でついに渡辺は正座をし、思いつめた表情で私を見つめた。

「わかりました。じゃー、言います。盗聴をやった創価学会幹部は、Yです」

「Yのどこを盗聴したのか?」

「自宅です」

そうして渡辺は、Yの電話盗聴を実行したのは、(株)帝国リサーチの辻であること、盗聴直後、辻から渡辺に電話があり、すぐに渡辺からYへ雑談の電話を入れるよう指示があったことを告白した。

私はそこで渡辺に尋ねた。

「辻はどうして、すぐYのところへ電話を入れるように指示したと思いますか? その理由がわかりますか?」

「全然、わかりません。その目的を教えられてもいませんでした」

私は渡辺が電話盗聴についてまったく知識がないこと、また、指示された行動の意味について、自分で何ら考えたこともない、まったくの従犯であることをここでも知った。

盗聴器を仕掛けた電話にすぐ電話を入れることは、電話盗聴器設置後、電話機能そのものに異常が生じていないか、電話盗聴器が正常に作動するかを、直接、確認するための行為である。

この少し考えればわかることを、電話盗聴に直接関与していながら、渡辺はまったく考えてもいないのである。これには正直、驚いた。

私は渡辺がYの名前を出したことで、納得した訳ではなかった。僧侶Aより得ていた情報は、日蓮正宗側が創価学会の複数の最高幹部を電話盗聴しているというものだった。

私は渡辺に対し、

「ほかにもやっているだろう」

と執拗に追及した。しかし渡辺の反応を見ていて、渡辺が直接かかわった創価学会幹部の電話盗聴は、Yのみではないかという判断に至らざるを得なかった。

私は渡辺に、

「裁判でYに対して行なった電話盗聴の真実を公表することが、罪を償うことになるんだよ。相手に対する最高の謝罪方法だよ」

と述べた。そして次のようにも話した。

「創価学会側に私から話をすることはない。また、Yにも言わないでおく。あなたが裁判で公表するまでは、誰にも話さないから裁判で真実を述べ、その謝罪をしなさい」

この時、渡辺は長年にわたり心の中に積もりに積もった〝澱〟を体外に放ったかのように、健やかな顔に変わっていた。渡辺は言った。

「猊下が電話盗聴の最高命令者であること、裁判でYを盗聴したことを述べ、公の場で謝罪します」

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