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第6章 大石寺への現地調査

私は平成九年八月二十一日と同年九月八日の二回にわたり、渡辺茂夫への取材を行なった。のち大石寺周辺の取材をしたが、それは妙泉坊への電話盗聴未遂事件についての裏づけを取ることを目的としていた。

私はまず、大石寺の従業員に取材をした。その取材において、大石寺の従業員は私に次のように話した。

「平成三年当時、大石寺は、静岡市に本社がある静岡電話工業という会社と業務提携をしていました。その契約に基づいて、静岡電話工業の従業員二名が大石寺に常駐していました」

この話を聞いて私は、渡辺と(株)帝国リサーチの従業員である辻栄三郎が大石寺を訪れた目的は、電話盗聴器の発見調査のためではないことを確信した。大石寺に常駐している電話業者を抜きにして、大石寺の電話盗聴器の発見調査が行なわれるはずがないからである。

◆焦点は大石寺における渡辺と辻の動線

渡辺は私の二回の取材のどちらにおいても、辻と渡辺のみで大石寺内を動いたと述べていた。

私は昭和四十三年と同四十四年に、創価学会員が日蓮正宗総本山である大石寺に団体で登山する「登山会」を運営する「輸送班」に所属し、大石寺の警備を担当したことがあった。昭和三十七年に創価学会へ入会して以来、大石寺への登山の回数は百回を超えており、「輸送班」での訓練によって、大石寺の建物の配置は当然のこととして、消火栓の位置まで明確に記憶していた。

大石寺の塔中坊は創価学会員の登山によりどんどん豊かになり、昭和四十七年の正本堂建立以降は増改築を繰り返していた。それに伴い電話回線の状況も複雑になっており、その保守点検のために静岡電話工業(株)の社員二名が常駐する必要があったのだろう。

私はこの取材にあたって、大石寺の電話回線の総延長について考えた。塔中坊が二十弱、それに正本堂、宗務院、内事部、大奥、売店、またそれぞれに数回線の内外線がある。すると、電話回線の総延長は、概算で百キロメートルを超えるのではないかと思われた。大石寺内の電話配線に詳しい者の立ち会いなくして、総延長百キロメートルを超える大石寺の電話配線全般にわたる電話盗聴器発見調査は不可能であろう。電話盗聴器の設置は、百キロメートルを超える電話線のどこでされているのかわからないのである。

ともあれ、平成三年秋に渡辺と辻が大石寺を訪れ、まず、電話交換室を見たが人の出入りが多くて断念し、裏塔中に止めた車に戻って辻が作業服に着替え、妙泉坊に向かったが、この時、辻が「電柱がない」と述べたこと、「電話回線が地下を通っているようだ」と辻が言って「マンホールにもぐった」ことを、私は二回目の渡辺に対する取材の時に渡辺から聞いていた。その辻の発言や行動がどういうことを意味するのか、より詳しく知るために、私は大石寺へ現地調査に行ったのである。

私は大石寺境内を取り囲んで立つ電柱に設置されている電話線の配線状況や、その電話線が大石寺の境内にどのように引きこまれているのかを調べた。その時のデータを基に作成し、後に東京地裁に証拠として提出したのが「大石寺周辺主要電話配線図」(巻末資料6)である。

電話盗聴の専門家である辻が電話盗聴しようとするならば、(株)帝国リサーチのやり方からして、おそらく電柱に設置された端子函(通称・ブラックボックス)に電話盗聴器を仕掛け、電波を発信し、それを別の場所で受信し録音するという方法をとる可能性が高い。だからこそ辻は「電柱がない」と驚いたのである。

しかし、大石寺周辺の電話回線の配線状況を見ると、正本堂の裏側(H地点)、宗務院西側(E地点)、総坊西側(A、C地点)の四箇所から電話線が大石寺境内に引き込まれていることが確認された。ただし、A、C、Hの三つの地点からの電話線は、総坊や総坊の売店及び正本堂に引き込まれているだけである。総坊は、団体登山の登山者が宿泊する施設であるし、売店も正本堂も電話盗聴によって情報を得ようとしている者にとっては大して意味のない場所である。

しかし、E地点にある宗務院西側の引き込み線は、大石寺の基幹引き込み線である。この電話線を逆にたどっていくと大石寺の三門西側の道路脇に建てられた電柱(D地点)において地中に入っていた。この電柱の上にはMDF(主端子函、主配線盤)があった。

換言すれば、電話線のケーブルがD地点で地下から地上に露出、ここから約三〇〇メートル北進して宗務院脇の電柱(E地点)に至り、大石寺内に引き込まれているのである。この約三〇〇メートルの区間には電柱が約十本立っており、端子函約二十個が電柱などに設置されていた。

つまり、この大石寺外周部の空中に露出した電話線のうち、D地点とE地点の間の電話線には、阿部日顕の使用する電話回線や宗務院の電話回線が通っていることが境内の外から見るだけでも判明したのである。

しかし、渡辺が私に話した内容によれば、辻はこのD・E間について電話盗聴しようとしていない。もし辻が大石寺総体の電話盗聴をしようとするならば、電話盗聴器の設置場所はD地点からE地点の間にある場所の端子函が最適である。D・E間であれば、大石寺境内への不法侵入の罪を犯すこともないし、電話盗聴器の設置や電池交換の作業も容易であり、電波の送受信もしやすいのである。弱い電波でも受信ができることから、電池も長持ちする。したがって電池交換の回数も減らせる。さらに電話盗聴する側にとって都合の良いことは、D・E間には受信機を隠すのに適当な場所がいくつもあることである。D・E間の端子函やMDFは、その内部において端子が露出しているため、盗聴器を仕掛けるのに極めて好都合の機器であるといえる。また多くの場合、これらの機器には施錠がなされていない。

しかし、D・E間で盗聴する場合の最大の問題は、電話回線がどの端末につながっているのか特定することが極めて困難なことだ。ただし、特定は辻などの興信所レベルでは不可能だが、正規の電話業者レベルなら可能である。

よって渡辺取材の際の話の中に、辻が大石寺を訪れた時の動線としてD地点とE地点の間に立つ電柱への行動がないことは、辻が大石寺を訪れた目的が、大石寺総体の盗聴器調査ではなく、また、大石寺のいずれかの電話回線にランダムに電話盗聴器を設置する作業でもないことを意味していた。辻は特定坊に盗聴器を設置するため大石寺を訪れたのだ。

◆大石寺現地調査は有意義だった

また、(株)帝国リサーチの「福田社長」は、平成八年二月一日付『慧妙』のインタビュー記事において、

「なお、大草さんからは、これまで関係先の電話が盗聴されていないか調べて欲しい、と盗聴器を探し出す仕事を依頼されたことがあります。それで、富士の理境坊とか、東京の妙観講本部の建物とか、長野や静岡の会社とかお寺とか、一件あたり五万円前後で、何ヶ所か調べさせてもらったことはありますよ」(平成八年二月一日付『慧妙』より一部抜粋)

と述べていた。ここで「福田社長」が言う「富士の理境坊」の「盗聴器を探し出す仕事」をするならば、理境坊の電話回線もこのD・E間を通っているのだから、(株)帝国リサーチの社員である辻は、このD・E間を調査しなければならない。しかし渡辺は私が何度も確認したにも関わらず、妙泉坊近くの「マンホールにもぐった」と答えただけであった。よって、辻は理境坊の電話盗聴器発見のための調査を行なっていたとしても、それは電話盗聴器を本気で探そうとした行為とはいえない。理境坊の電話回線もD地点とE地点の間を通っているのだから、理境坊の電話盗聴器発見調査ならば、D地点とE地点の間もその調査の対象となる。したがって、辻が理境坊内部の調査しか行なっていないのであるならば、それは形だけのものであると結論せざるをえないのである。

私は(株)帝国リサーチの「福田社長」が「富士の理境坊」の「盗聴器を探し出す仕事」を行なったと『慧妙』で答えているのを見て、(株)帝国リサーチが理境坊の盗聴器発見調査を名目にして、妙泉坊の電話盗聴を試みたのではないかと考えていた。

このように、大石寺を訪れた際の渡辺と辻の動線と現地の電話配線状況を合わせ考えてみると、渡辺と辻は大石寺総体の電話盗聴を行なおうとしたわけではないし、理境坊の電話盗聴器発見調査をしたわけでもないことが明らかとなる。大石寺総体を電話盗聴しようとする場合も、理境坊の電話盗聴器発見調査を行なおうとする場合も、D地点とE地点の間を調査する必要があるのである。そのD地点とE地点の間の電話線周辺に盗聴器からの電波が飛んでいないかどうか確認し、端子函の中に盗聴器が設置されていないかどうかを視認するというような調査をしていないということは、辻と渡辺の大石寺訪問の目的が大石寺内の特定の坊の電話盗聴であった、という結論に帰するのである。

そうなると辻が「マンホールにもぐった」行為は何を示しているのであろうか。それは大石寺内にある「マンホール」のそばにある特定の場所の電話回線に対する電話盗聴を試みた行為に他ならない。念を押しておくが、辻は大石寺に何百もあるであろうマンホールのすべてを見たわけではなく、ただその一箇所のマンホールを開けたのだ。

では、辻が電話盗聴を試みた特定の場所とはどこだろうか。それは「マンホール」のそばの坊である。(株)帝国リサーチ発行の「請求書」には「妙泉坊の件出張費」と明記されている。辻の開けた「マンホール」のそばに妙泉坊は位置する。

私はこの現地調査において、(株)帝国リサーチの辻が大石寺を訪れた目的が妙泉坊の電話盗聴であり、私の取材に対する渡辺の話が真実であったことを確認した。また私のこの現地調査は、「請求書」に書かれた「妙泉坊の件出張費」が妙泉坊を電話盗聴しようとして失敗した電話盗聴未遂事件を表しているとした僧侶Aの情報をも同時に裏づけるものであった。

僧侶Aもまた、

「未遂に終わった理由は、電話回線の特定ができなかったからだそうです」

と妙泉坊に対する電話盗聴が未遂に終わった事情を私に述べていた。

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