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第2章 入手資料の分析

私は電話の盗聴内容が録音されたカセットテープを、編集室で聞いた。Xの電話盗聴の録音テープを再生すると、ラジオ音声が電話会話と同程度以上に混入しており、非常に聞きづらくて驚いた。

この電話を盗聴されたXと私は交流があった。Xは、昭和四十七年十月十二日に大石寺に正本堂が建立された際、その正本堂の御供養金を返還せよとの訴訟を起こそうとしていた人物である。

◆ウソつきに謝った阿部日顕

この頃、Xは創価学会対策連合協議会(創対連)の理事をやっており、創価学会の脱会者だった。創対連は、理事に真言宗根来派の管長の縁戚関係者や日本共産党の支部長などが入っており、反創価学会の動きを組織立って行なっていた。創対連には立正佼成会会長(当時)の庭野日敬の次男である庭野欽次郎が資金提供をしていた。欽次郎は現在、庭野平和財団の理事長をしており、兄は現立正佼成会会長の庭野日鑛である。

Xらは、正本堂は本来、日蓮正宗の信者であるなしにかかわらず参拝を許される公開の「本門事の戒壇堂」として御供養勧募されたものであると主張。その根拠として 昭和四十年三月二十六日の「正本堂御供養趣意書」の文を挙げた。ところが、建立直前になって、

「正本堂は一期弘法抄並びに三大秘法抄の意義を含む現時における事の戒壇なり、すなわち正本堂は広宣流布の暁に本門寺の戒壇たるべき大殿堂なり。但し現時にあっては未だ謗法の徒多きが故に、安置の本門戒壇の大御本尊はこれを公開せず、須弥壇は蔵の形式をもって荘厳し奉るなり」(昭和四十七年四月二十八日付細井日達管長の「訓諭」)

と、内拝の形をとり勧募の意義を改変したのは、詐欺的行為であるとして訴訟の準備をしていた。その提訴の前段階において創価学会側と話し合いをした際、Xは、当時、創価学会顧問弁護士であった山﨑正友と会い、山﨑に篭絡され、反転して創対連の切り崩しを行ない、その後、山﨑の手下となった。

昭和五十五年、山﨑が創価学会を恐喝に及んだ際も、Xは山﨑の部下としてさまざまなマスメディアや日本共産党機関紙『赤旗』記者などと会い、山﨑の指示に基づき虚実織り交ぜた操作情報を流した。ところが、創価学会恐喝による実刑判決が最高裁で確定し、平成三年二月二十五日に山﨑が収監される直前、山﨑はどのような根拠があったのか知らないが、Xについて創価学会のスパイだと周りの身近な者たちに言い残して刑務所に入った。この山﨑の言葉は、X周辺にもすぐさま伝播した。Xはこの故なき仕打ちに腹を立て、山﨑に絡むさまざまな秘密を暴露し始めた。平成三年といえば、平成二年十二月二十七日に宗規改正に事寄せて池田大作創価学会名誉会長が総講頭職より実質的に罷免された「C作戦」発動の直後であった。そのような時にXは以下のようなことを暴露した。

「一月五日に法華講のいわゆる本応寺信徒として登山する以前は、いままでは御本山の某僧侶、F御尊師、はっきり名前言いますと当時、海外部書記の福田毅道さん、この人と約二時間話したんです。その時に、『Xさんは山崎正友さんに連絡はとれますか』というもんですから、とろうと思えばとれますと言いましたら、その時に、『では山崎正友さんに猊下さんからのおことづけをお願いしたいんだ』というわけです。

『これから言うことをそのまま伝えていただきたい、〈あの時はウソつきと言って悪かった。かんべんして下さい。〉このように伝えてください。Xさんは意味が分らなくてもいいんだ。こういう風に言えば山崎正友さんは理解できるはずです。

ただしこのことは絶対に口外しないでいただきたい。私とXさんの間だけにして絶対マスコミには特に言わないで頂きたい』ということでした。

それで帰ってきまして、たしか六日の日に山崎正友さんに連絡をとりました。実はこれこれこういうわけでもって、その旨を伝えた。

山崎さんはいわゆるかつての上司ですから、私のことをXさんと言ったことは一度もない。それが『Xさんそれは本当かね。本当ですか』と、ていねいな言葉で二度も言った、『わかった、どうもありがとう』と、はじめて、あの人がなんていうんですか部下に対する言葉でなくて、『ありがとう』と二度も言った」(『新雑誌21』平成三年八月号 原文ではXは実名)

日顕が血脈相承を受けていないと主張していた張本人である山﨑に、「あの時はウソつきと言って悪かった。かんべんして下さい」と謝罪したというのであるから、このXの暴露は日顕の無節操さを証明するものであり、血脈相承を受けていない自らの立場を自己暴露しているに等しかった。

なお、日顕が山﨑に対してウソつき呼ばわりしたのは、登座後間もない昭和五十四年九月二十五日のことである。この時、日顕は大石寺に詣でた山﨑に対して、

「あんたは大ウソつきだ」

と述べ、以降、大石寺への出入りを禁止したことが明確となっている。

◆懲役三年がアリバイ?

さて、Xが『新雑誌21』において日顕や山﨑にかかわる真相を表に出し始めたことを見て、私はXの自宅を訪ねた。私はかつて山﨑のもとにおいて事件対策をしていたことがあったので、その当時、Xとは面識があった。Xは私に対し、昭和五十五年の山﨑による創価学会恐喝事件の際に、山﨑の指示で『赤旗』の取材に応じたことに言及し、『赤旗』の私に対する虚偽の報道のネタ元が自分であることを明かした。そして、「本当に申し訳ない」と謝罪した。これ以降、私とXとは親交を温めていくこととなる。

何度か会っている時、Xは私に山﨑が収監される前日にXと話した電話会話の録音テープを渡してくれた。

「この録音テープの最後に、『この話は北林に聞かせてやったほうがいいよ』と言っているのだから、べつに渡しても構わないでしょう」

と、Xは皮肉な笑いを浮かべて言った。その録音テープを聞くと山﨑は「C作戦」について、次のように述べていた。

「あのね、要するにね、ウジ虫みたいな北林だのね、ウジ虫みたいなのがね、ゴチャゴチャ、ゴチャゴチャやってるけど、そんなことなんの効き目もないの。もう、山の方針は決まってるし。ねっ、近いうちに大きな処分がどんどん出るだろうし」

「そういうね、いわゆる北林ら。彼らは、学会は潰れることはねえ、あんな大きなものはどんなことがあっても、潰れることはねえ、と思ってそっちにくっついたんでしょう。食いっぱぐれはねえと思ってやってるけど、ねっ、もう、食いっぱぐれるのは目に見えてんの、先が」

「収監されることなんかどうでもないっつうの。そんなことは、もう、とっくの昔から計算済みだって。折込済みで、しかも、それをちゃんと、それもね、利用して、俺は戦略立ててんだから。中に入ってるあいだに、何が起こったって、オレの責任じゃねーんだよ。中に入ってるあいだにね、どんな事件が起ころうと、わしゃ、関係ねーってことでしょう」

「とことんまで日顕さんがやっつけるよ」

「ウジ虫どもがね、グチャグチャ、グチャグチャその程度の脳ミソしかねえーのよ。北林にせーね、その程度の脳ミソ、その程度のメシしか食えねえ連中だから、そんなことやってんだけど、まー、バカっつうか、しょうがない。相手にしてもいないでしょう、取り合ってもいないでしょう。そういうゴミどもを相手しないっつうの」

「一年、二年過ぎて、あとで再審請求で無罪になったらそれでいいじゃない。そうじゃなくても、出て、いろんなことがあったあとで、なんの俺の活動の妨げにならないんだもん。俺のやったこと、全部、正しいことになっちゃうんだから。そうでしょう。かえって箔がつくだけ」

「ねっ、先を見なきゃダメだよ、先を。ほっときゃいいの。もう、終わったのよ、もう」

「もう、終わったの。戦争はもう、終わったの。少し療養しなきゃダメなのよ。刑務所の中の病院が一番いいのよ、うるさくなくて。もう、療養することだけが俺の仕事だから。もう、終わったのよ。結果が出る頃には、戦争はもうね、結果が出る何カ月も前に、もう、全部、終わっちゃうの。黙って見てりゃいいのよ」

このように山﨑は懲役三年の実刑に服する収監直前でありながら、日蓮正宗が「C作戦」を実行することに対する喜びを隠せない有様であった。

◆日蓮正宗の電話盗聴の実績

またXは、その後も私に録音テープをよこした。その録音テープには、Xと日蓮正宗南四国布教区支院長で徳島の敬台寺住職・日比野慈成との電話会話が録音されていた。日比野は当時、敬台寺の執事であった宮川雄法が創価学会に気脈を通じているとにらみ、当人の立ち寄り先の電話を盗聴していた。そのことが発覚し、平成三年六月二十七日に同電話盗聴を実行したニッタン徳島の村口秀美社長が逮捕され、裁判で懲役八カ月、執行猶予三年の刑が言い渡された。また日比野も取調べを受け、徳島地方検察庁に書類送検されたが、うまく逃げおおせた。日比野をかばった敬台寺副講頭の谷脇一二は罰金刑となった。

私はこの事件について、いかに執事の学会色が強いとはいえ、副講頭が自らの判断で僧侶を電話盗聴するということはありえず、必ず住職の日比野がからんでいる、あるいは大石寺役僧の承認があったとにらんでいた。Xが私によこした日比野との電話会話を録音したカセットテープには、次のような箇所があった。

日比野 ええ。あのー、興信所に頼んでいるわけですけれども、それを、お寺の名前とか僕の名前を出しますとね、いくらでもふっかけてくるもんで、で、信者さんのね、まっ、法華講の人の名前にしているんですよ。

X   あー、なるほど、なるほど。あー、そうですね。

日比野 ええ。

X   そのくらい、やっぱり、慎重にやらないと。

日比野 やらないけんからね。

X   とにかく、相手はね……

日比野 ええ、ええ。

X   化けもんですからね。

日比野 そうなんです。

X   はい、はい。

日比野 ええ。もう、前の五十二年のときで知ってますからね。

X   はい、そうですね。

日比野 で、まー、そういったことでね、うちが、あの、あれしたんじゃないということで、まー、いずれ、そういった面でね、あの、しっかりと叩いてやろうかなとは思ってんですよ。フフフ。

日比野はXに対し、執事に対する電話盗聴は、自らが実行者であることを自慢げに話している。しかし、私が録音テープ、ただし正確に言えばダビングしたテープをXより入手した時には、すでに刑事裁判は終結しており、このダビングした録音テープを捜査当局に提供する機を逸していた。もし、このダビングした録音テープがあったならば、副講頭などと共謀して証拠隠滅行為をしているのであるから、日蓮正宗南四国布教区支院長の地位にある日比野が逮捕され、刑事裁判において有罪判決を受けていたことは間違いないと思われる。

なお、この録音テープの原本は、宮川らが原告となって起こした損害賠償請求訴訟に証拠として提出された。ただし、この録音テープが同民事裁判に証拠提出されたのは、のちに詳述するがXが電話盗聴されたことを請求原因として日蓮正宗側を訴えた裁判において証拠として提出され、それを取り寄せた原告宮川らの訴訟代理人弁護士が裁判所に証拠提出した経過があった。のち平成十一年七月三十日に下された高松高裁の判決では、日蓮正宗宗務院庶務部長・早瀬義寛(現・日蓮正宗管長 早瀬日如)が日比野が電話盗聴していることを知っていながら、それをやめさせなかったことを咎められ、宗教法人日蓮正宗は日比野の使用者責任を負った。

この高裁判決は、十二月の最高裁判決で認定された。

ともあれ、平成七年十二月初旬、私が僧侶Aより一連の電話盗聴に関する資料や録音テープを入手した時、私はすでに日比野らの電話盗聴の一件を、Xよりもらった電話会話を録音したテープによって知っていた。

したがって、僧侶Aから情報提供を受けた時、阿部日顕を〝法主〟とする日蓮正宗首脳が電話盗聴という手段を行使していることについては、さして違和感もなく最終的に受け入れることができた。

◆盗聴テープにはラジオ放送が混入

僧侶Aより入手した、Xが電話盗聴されたという会話の録音テープを再生した。そこには聞き慣れたXの声が録音されていた。その録音テープには、電話での会話が聞き取りにくいほどのラジオ放送電波が混入していたが、これに関わることをかつてXが私に話したことがある。

「どうして私があの地域に住んでいると思いますか? 家賃が安いんですよ。近くに民放のラジオ局の電波を発する施設があって、とんでもない現象が起こるんですよ。ラジオのスイッチを入れていないのに、ラジオから勝手にその局の放送が流れてくるんですよ。風呂に入ると水道の蛇口からも時どき放送が流れるんですよ。信じられます、この現象? 電波が強く健康に悪いという人もいて、住民は不安をもっており、だから家賃が安いんですよ」

私は東京理科大学理学部物理学科で学んだことがあったので、Xの自宅が強電界内にあると認識した。おそらくラジオの電源スイッチを入れていなくとも、強い電磁波の影響を受け、スピーカー内部のコイルに電流が流れ、磁石に作用し音声を発生させると考えられた。風呂場の蛇口については、蛇口の方向と電磁波の方向との角度の変化によって同調する一定角度があり、音声を発声させると理解した。

「電気釜も放送してない?」

「そうなんですよ! 電気釜までラジオ放送するんですよ」

私の質問にXは苦笑いしながら答えた。

「それにしても、よく、電話に雑音が入らないね」

「それは、NTTが地域の全世帯に無料で特別な装置をつけてくれているおかげで入らないんですよ」

「へぇー」

僧侶Aよりもらった混信した聞きづらい録音テープを聞いた時、このXとの会話が思い出された。やはりこのテープに録音されている会話は、電話盗聴されたものに間違いない。僧侶Aより入手した録音テープは、これまでXより入手した電話会話の録音テープとはまったく異質なものであった。異常なまでのラジオ電波の混信は、電話盗聴器の発する電波だけでなく、ラジオ電波をも受信したことによって起きていると容易に結論された。

なお、Xの住居近くにある民放の放送基地局は文化放送(1134キロヘルツ・100キロワット)のものであり、調べたところ、この施設は戦前からあり、この基地局とXの自宅との距離は地図上で確認すると約500メートル程度であった。

他方、日蓮正宗渉外部長である宣徳寺住職・秋元広学が電話で話している会話が録音されているテープの内容を聞いた。そこには家族のプライバシーに及ぶ他人に知られたくない内容が述べられていたので、これもまた電話盗聴されたものに間違いないと、すぐさま判断できた。この秋元が電話で会話している録音テープも、一部、ラジオ電波の混信が確認された。

◆電話盗聴テープの分析

そのうえで、電話盗聴をした録音テープと、(株)帝国リサーチが発行した「請求書」に記載された内容がどのように符合するか、分析する必要があった。これは少しまどろっこしく感じる手間のかかる作業であったが、それぞれの録音テープの分析内容は次に列記するようなものであった。

【Xの録音テープについて】

①この録音テープには、文化放送の「大学対抗めざせ宝島決勝ラウンド」という番組内容が混信しており、同番組は毎週日曜日に放送されていた。そして「来週十二月二十九日は年末スペシャルと題しまして」と放送されていることから、この録音テープは十二月二十二日に電話盗聴された内容が含まれていると特定された。十二月二十二日が日曜日である年は、遡れば平成三年、昭和六十年、昭和四十九年であることが暦で特定された。

②さらにこの録音テープには、「ロシア共和国の最高会議の懇談会が二十三日、五月一日のメーデーと十一月七日、八日のロシア革命の祝日を廃止する法案を審議」という放送が録音されている。平成三年十二月二十四日付「朝日新聞」夕刊には、同内容の記事が掲載されていることから、この録音テープにあるニュースは二十四日のものと判断された。

【秋元の録音テープについて】

①電話を受けている女性が、男性の「宣徳寺さんでしょうか?」という問いかけに、「はい、そうです」と答えている。

②文藝春秋社の編集長・白川という人物に電話をした際、「日蓮正宗渉外部の秋元」と名乗っている。会話の中で白川が「上人猊下」に文藝春秋社発行の出版物に登場して欲しいと秋元に要望しており、現に平成四年二月号の月刊『文藝春秋』には「創価学会会員に告ぐ」というタイトルの阿部日顕の原稿が掲載されている。

③娘の就職などに関する話。

④時期については、まず、十一月二十日、二十一日に行なわれる「御大会」の警備につき、警察当局と連絡をしている様子から、その直前の会話であると判断された。

⑤さらに、日蓮正宗渉外部主任の梅屋誠岳との会話で平成三年十一月二十四日号の『週刊読売』(十一月十一日発売)、同年十二月一日号の『週刊読売』『サンデー毎日』(いずれも十一月十八日発売)、の記事にも言及していることから、これらの会話が平成三年十一月十八日以降のものであると判断された。

⑥また、白川との会話の途中、大きな地震が今あったことに言及しているが、平成三年十一月十九日午後五時二十四分に東京で震度四の地震が観測されており、平成三年十一月十九日に電話盗聴されたものであると判断した。

当事者同士の会話、混入したラジオ放送の内容と照合すると、(株)帝国リサーチが「請求書」(②、巻末資料2)に「調査期間」という名目で書いた日付と一致した。「調査期間」と記された日付は、Xの場合、以下のとおり。

「11/12、13、16」

同じく、秋元の場合は以下のとおり。

「11/2、3、6、7、8、9、10、12、13、14、15、16、18、19、20、21」

やはり、僧侶Aのもたらした「請求書」等の資料と電話盗聴テープは一体のものであった。そのうえで私はある事実に気がついた。「調査期間」と記された電話盗聴を実施したとされた日付のうち、間欠的に電話盗聴が実施されていない日がある。これはどのようなことを意味するのであろうか。私は考えた。

……電話の電流には会話音声が信号波として含まれている。電話盗聴犯は、その信号波を電話で会話している当事者に気づかれないよう盗まなければならない。そして、NTTや第三者にも気づかれないようにしなくてはならない。その信号波の入手方法は、直接、電話回線に結線して行なう方法が考えられるが、これは電話盗聴が発覚した際、電話回線に結線されているその線をたどることにより、たちまち盗聴犯が発見されることになる。

したがって、多くは電波を発し、信号波を無線で搬送波に乗せ受信機に伝えようとする。しかし、その発信するための全エネルギーを電話線に流れる電流から取った場合は、電話機に流れる電流の電圧が落ち、会話当事者の相手方の音声が低くなり、聞きづらくなる。そして、そのことによって盗聴されていることに気づくか、あるいは盗聴されているとまで思わなくとも、NTTに電話の不調を伝え苦情を言うことにより電話盗聴器を発見される恐れがある。

したがって、電話線に流れる電流を、電話盗聴器が電波発信の電源として一〇〇パーセント使用することは禁じ手となる。すると、方法は限られてくる。簡単なのは、会話当事者に気づかれないように一部の微弱な電流を電話線に並列に装着した電話盗聴器に流し、会話音声の信号波を拾い、その信号波を自分たちが設置している受信機が傍受可能な程度の強さをもった搬送波に乗せて飛ばすという方法である。この場合、搬送波をより強力にするために、電話盗聴器に内蔵した補助電源(電池など)が必要となるのである。しかしながら、この方法をとった場合は、補助電源がなくなったら、その日の電話会話が傍受不能で録音されないという結果となる。だから電話盗聴されていない空白の日が生じる。

簡略に言えば、電話盗聴器の電池切れが空白の日となっているということである。

受信機に録音機が接続されていることは無論のことである。電話盗聴器は、電話での会話が行なわれた時のみ電波を発信する。もし、その盗聴電波を受信する受信機に接続された録音機が音声起動録音機能付きでなければ、カセットテープは電話が使われていなくても録音をし続けることになり、電話盗聴犯らはカセットテープの録音時間がいっぱいになった時点で、カセットテープを交換するために盗聴現場へ行かなければならない。だから、音声によって起動する録音機を使用するのだが、もし、先述したように電波の発信機の電池が切れた場合は、まったく録音されることのない日が生じる。その空白の日が生じたのちに、辺りの安全を見計らって、適当な時刻に適当な方法で電話盗聴器の電池を新しい電池に入れ換えているということになる。

もちろん受信機は、発信機からさして距離を隔てていないどこかに何らかの形で隠されている。発信機と受信機とを隔てる距離を長くすればするほど強力な電波を出す必要があり、そのために電池の消耗が早くなる。また、電波を遠くに強力に飛ばせば、一般家庭のなんらかの受信装置に電波が混信または同調し、会話内容を聞かれる危険性が増す。電池の消耗や第三者に偶然、電話盗聴電波を拾われる危険性を免れるために、発信機と受信機はそう遠くない位置にあると判断される……

◆妙泉坊への電話盗聴は未遂

Xに関する「特殊実態調査報告書」(⑤)を作成し、電話盗聴の経費を請求していた(株)帝国リサーチについても調べた。

この「特殊実態調査報告書」には、(株)帝国リサーチの住所地が「東京都新宿区新宿2?10?7 TOMビル4F」となっていた。

そこで(株)帝国リサーチの会社登記簿謄本をすぐさま取り寄せた。すると(株)帝国リサーチの代表取締役は意外にも女性で、「福田惠美子」となっていた。役員欄を遡ることによって、この(株)帝国リサーチの社長の旧姓が「塩谷」という名前であることがわかり、また新たな事実が判明した。

僧侶Aからもらった一月二十二日付のファックス文書(③、巻末資料3)には、「本山に出すので正規の料金で請求書を作成して欲しいとの事で」などと書かれており、宛名は「渡辺様」で、文章の末尾には「塩谷」と書かれてあった。

「渡辺様」が、(株)帝国リサーチに電話盗聴を依頼する窓口の役割をしたと目される日蓮正宗妙観講の元教学部長の渡辺茂夫であることは、容易に推測された。「塩谷」という表記は、(株)帝国リサーチの会社登記簿謄本をとることによって、何らかの理由で福田惠美子が旧姓を使っているのか、またはその縁戚関係者が同社で働いており、このファックス文書を書いたのではないかと推測された。

いずれにしても、ファックス文書のヘッダーには「FROM テイコクリサーチ」と印字されているのだから、このファックス文書が(株)帝国リサーチより発信されたものであることは、疑いようがなかった。さらに先述したように、このファックス文書のヘッダーには、「1992.1.22

15:11」と印字されており、その他の「請求書」の日付からして、このファックス文書は平成四年一月二十二日のものであることが判明した。

また先述したとおり、Xについての「調査報告書」には手書きの「Xに関する内偵調査」とワープロ打ちされた「特殊実態調査報告書」の二様があり、その内容はほぼ同じであった。そこに書かれた内容と自宅写真などをXを知っている私が読んだところ、その内容に事実に反するものはなかった。しかし、この程度の「調査報告書」で二〇〇万円超もの報酬をもらえるとは到底、考えられなかった。相場的には二、三〇万円程度の仕事でしかない。しかし、このワープロ打ちされた「特殊実態調査報告書」の中に「特殊工作」という表記があることから、二〇〇万円超もの報酬は、電話盗聴の報酬を含むものと考えられた。そのことは現にXの電話盗聴録音テープがあるのだから、揺るぎのないものであるといえる。

僧侶Aは「妙泉坊の件出張費」とは、大石寺ナンバー2の主任理事である八木信瑩の塔中坊に対する電話盗聴未遂であると述べたが、その費用が五万円であることに私は違和感を覚えた。また、「名古屋出張の件」についても、僧侶Aは宗門に反発をした奥住樹雄という人物に対する電話盗聴未遂であったと述べていた。

私は(株)報恩社の編集部員と共に、僧侶Aと分析した内容をさらに再確認しながら精査した。「請求書」と題する請求明細書(②、巻末資料2)には次のように書かれている。

「3、妙泉坊の件出張費 50,000円」

「4、名古屋出張の件  52,590円」

その請求内訳は、妙泉坊については、ただ、

「交通費、他」

と記されており、名古屋の奥住については、

「新幹線往復 2人分  41,520円

現地交通費  3,770円

その他諸雑費  7,000円」

と記されていた。

この記載内容からして「妙泉坊の件出張費」「名古屋出張の件」は、いずれも未遂に終わったので実費のみ請求したと考えられる。大石寺塔中坊の妙泉坊については、車で行ったものと判断された。その理由は、「名古屋出張の件」には、「新幹線往復 2人分」「現地交通費」「その他諸雑費」と細かく内容が書かれている。しかし、「妙泉坊の件出張費」については「交通費、他」とのみあるだけで極めて大雑把である。よって、妙泉坊に電話盗聴をしに行った者は、新富士駅まで新幹線を使うという手段などとらず、車を利用したものと判断された。

しかし、未遂にしても実費のみ請求するということは、どういうことだろうか。これも疑問であったが、日蓮正宗妙観講が渡辺を窓口として(株)帝国リサーチの「会員」になっていることは、十二月九日付の「請求書」(②)によって明らかである。(株)帝国リサーチの会員特典の中に、未遂の場合は実費請求のみで済ませるというものがあると推測された。

この「会員割引」特典から判断されることは、(株)帝国リサーチが電話盗聴に相当な自信を持っていることである。よほどのことがなければ電話盗聴の実行を断念することはないのだ。そのように考えると、「請求書」(②)に四件中二件が実費請求とされていることは、同社にとって珍しいということになる。四件中二件、すなわち五〇パーセントが電話盗聴未遂に終わったというのはレアなケースなのだろう。

これらの分析を行なうと同時に、平成三年当時の盗聴技術を調べるため、『ラジオライフ』の別冊である『盗聴のすべて』(平成二年度版、平成五年度版、平成七年度版)などを購入し、それらのものを参考に僧侶Aよりもたらされた資料をさらに分析した。

僧侶Aから入手した資料によって発覚した電話盗聴の件数は、氷山の一角である。会員となり特別な割引まで受けている事実からして、この(株)帝国リサーチに常態的に電話盗聴が依頼されていた事実がわかる。

いずれにしても、潤沢な資金を持った者が真の依頼者であることが、これらの資料で読み取ることができ、ここでも、僧侶Aのもたらした情報、すなわち一連の電話盗聴が日顕の命令によってなされ、その資金提供も日顕からなされている??、そのことが、より真実味をもって受け取られた。

それにしても、会員となり特別割引を利用して電話盗聴を行なっているということは、妙観講が常態的に電話盗聴を繰り返していることを示して余りある事実である。

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